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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)128号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び第一ないし第三引用例の記載内容が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第八号証によれば、次の事実を認めることができる。電着塗装は、電気被覆される被塗物を合成有機ビヒクル樹脂のような溶解されイオン化されたフイルム形成性物質の水性分散液(電着浴)中に沈め、電流を電極となる被覆される被塗物と対立電極との間に通じて、ビヒクル樹脂の被膜を被塗物上に析出させ、次に被塗物を浴から取出して水洗した後、被膜を普通の仕上げ方法で空気乾燥するか、焼付けることによつて行なう方法である。これを連続的に行なういわゆる電着プロセスでは引出し損失及び有害な引出し物を含有している洗浄水の処理が問題となり、本願発明出願前は第一引用例記載の発明のように、限外濾過装置により使用した電着浴組成物を濾過処理していたのであるが、本願発明はその改善をはかろうとするものである。即ち、使用された電着浴組成物を限外濾過処理すると高分子量の樹脂、顔料等の溶質(以下「高分子量物質」という。)は濃縮液となつて残り、高分子量物質からの溶媒及び低分子量の溶質(例えば、アミン、アルカリ金属イオン、ホスフエート、クロメート、スルフエート、塩、二酸化炭素等)(以下、「低分子量物質等」という。)の相当量は濾過され、前記濃縮液は再び電着槽に戻され電着塗装に再利用されるが、低分子量物質等を含む限外濾過液は生態に有害なものを含むからこれを排出すれば公害問題をおこすことになるし、また、これを洗浄水として用いれば濾過された低分子量物質等による被塗物の汚染の問題が生ずる。そこで、本願発明は、この限外濾過液を逆浸透装置により再処理して、より多くのこれら有害な低分子量物質等を含む濃縮液(発明の要旨中の濃縮保持液)を残し、できるだけこれらを含有しない純粋に近い水性流出液(発明の要旨中の第二水性流出液)を濾過したうえ、濃縮液の少なくとも一部を排出し、水性流出液の少なくとも一部を被塗物の洗浄に用いることとしたものである。

このようにして、本願発明においては、限外濾過液を逆浸透処理することにより、限外濾過処理のみを行なう従来技術における廃水処理の問題及び被塗物の洗浄問題を改善するとともに、限外濾過液に含まれるかなりの量の低分子量物質等が濃縮物として分離される結果、電着浴の調整を一層良好に行なうことができるようにしたものと認められ、本願発明の解決課題は、電着塗装に限外濾過処理と逆浸透濾過処理を併用することによつて、限外濾過処理のみを行なう従来技術の問題点を改善することにあつたということができる。

三 取消事由(1)について

前記争いのない本願発明の要旨及び第三引用例の記載内容によれば、本願発明と第三引用例記載の発明は、審決が指摘するように、電着塗装における電着浴を逆浸透濾過して得られる水性流出液を被塗物の洗浄水として使用するという点では変りないとしても、本願発明では前記のような技術的課題のもとに限外濾過処理を経た電着液を更に逆浸透濾過処理しているのに対し、第三引用例記載の発明では電着浴を直ちに逆浸透濾過処理しているのであつて、成立に争いのない甲第七号証によるも、同引用例中には、限外濾過液を再濾過することにより、本願発明における前記技術的課題を解決するという技術手段を示唆するような記載を見出すことはできない。したがつて、かかる第三引用例記載の発明と本願発明との対比において、単に水性流出液を被塗物の洗浄水として使用するという点のみを抽出して、両者は変りがないとすることは相当ではない。

更に、両発明の効果の点を比較すると、前掲甲第七号証によれば、第三引用例には、「被覆槽中にある媒体を加圧下で逆浸透装置を通過し、その際、流出物のうち高濃度の樹脂および顔料を含む部分は、被覆槽(あるいは貯蔵槽)に戻され、水あるいは低濃度の樹脂や顔料を有する部分は廃棄されるか、あるいは別の用途で利用される。」との記載(第二欄一六行ないし二二行目)があることが認められ、これによれば、電着浴を限外濾過処理を経ず逆浸透濾過処理をしたにすぎない第三引用例記載の発明における逆浸透濾過液である水性流出液は、低濃度の樹脂や顔料を含有するから、これを被塗物の洗浄に用いても、被塗物をより清浄にするという目的が十分に達せられないおそれがあるといえる。これに対し、前掲甲第八号証によれば、本願発明の特許公報中発明の詳細な説明には、「実質的により純粋な水性流出液が出ることが今や分つた。」(第三欄二〇行ないし二二行目)、「一方実質的により純粋な流出液をドレンに送る。」(同欄三〇行ないし三一行目)との記載があることが認められ、これらの記載によれば、限外濾過及び逆浸透濾過の各処理を併用して電着浴を濾過することによつて得られる本願発明の逆浸透濾過液である水性流出液は、第三引用例の発明の場合に比し純粋であり、被塗物の洗浄効果を上げることが可能なものと認めることができる。もつとも、被告主張のように、前記本願発明の特許公報(甲第八号証)中の「実質的により純粋な」との記載は、低濃度の樹脂や顔料等を全く含まないことを示すものではなく、また、成立に争いのない甲第九号証によれば、JOURNAL OF COATINGS TECHNOLOGY(五四巻六八九号一九八二年六月発行)には、「貯水槽中に貯えられた限外濾液は逆浸透システムの供給水である。この供給流の一部を静水圧をかけて半透性逆浸透膜を通過させる。この流れ、即ち逆浸透濾液は限外濾液供給流より実質上より低い濃度の塗料残渣と無機物を含んでいる。」との記載(五八頁左欄六行ないし一八行目)があることが認められ、この記載によれば、本願発明の逆浸透濾過液である水性流出液にも低濃度物質が含まれていることは否定できない。しかし、また、前掲甲第九号証によれば、その五九頁表―二は本願発明における逆浸透濾過液である水性流出液に含まれている不揮発分が〇・〇九パーセントにすぎないことを示していることが認められ、これによれば、本願発明の逆浸透濾過液である水性流出液における低濃度物質の含有量は極めて微量であるといつて差支えないところであり、第三引用例の発明の逆浸透濾過液である水性流出液における低濃度物質の含有量は必ずしも明らかではないが、同じく水性流出液といつても、限外濾過及び逆浸透濾過の各処理を経て得た本願発明のものの方が逆浸透濾過処理を経たにすぎない第三引用例記載の発明のものに比べ、純度において勝ること前記のとおりであるから、低濃度物質を含んでいたとしても、その洗浄効果において本願発明のものが上廻つているといつて差支えないであろう。

次に、濾過後の濃縮液の電着浴の再利用という点で両発明を比較すると、第三引用例記載の発明では直ちに逆浸透濾過処理をするため、水は濾過されるものの低分子量物質等は濾過されることなく濃縮液中に残り、この濃縮液が電着槽に戻されて電着浴として再利用されることになるから、浴中に次第に低分子量物質等が蓄積され、これが被塗物に付着して電着塗膜を汚染し、仮にこれを純度の高い水性流出液で洗浄しても十分な洗浄効果を期待することができないものというべきである。これに対し、本願発明では第一段階で限外濾過処理されるため、かなりの量の低分子量物質等は濾過され、電着槽に戻されて電着浴として再利用される濃縮液には第三引用例記載の場合に比し少量の低分子量物質等しか残存しないから、電着塗膜に対する汚染度は低いものになる。

かように、第三引用例には本願発明の技術的課題の解決を示唆する記載もなく、両発明における逆浸透濾過処理がなされる過程も異なるし、その作用効果にも差異があるのであるから、第三引用例記載の発明に基づき、その逆浸透濾過処理の点に着目して、直ちに、本願発明の方法を着想することが容易であつたとすることはできないものといわなければならない。

四 取消事由(2)について

前記争いのない第一引用例の記載内容及び成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例記載の発明は、本願発明の最初の段階である限外濾過処理のみを行なう電着塗装技術にほかならないところ、右甲第五号証によれば、同引用例にはクローズドサイクルすすぎシステムが図示され、その長所として、「限外濾液中に存在する有機溶剤は純粋な水よりも、持出塗料の除去により有効である。有機溶剤は稀釈洗浄塗料を安定化するのを助け、その再使用を安全にする」との記載(二九頁左欄三〇行ないし三六行目)があることが認められこれによれば、第一引用例記載の発明では、限外濾過処理を行なう電着塗装技術において限外濾過液から有機溶剤を除去すること、即ち本願発明におけるが如く同液を更に精製処理することはむしろ望ましくないと考えられているものと解するのが相当である。

また、前記争いのない第二引用例の記載内容及び成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例には、微生物を利用した下水又は産業廃水の浄化処理に関する技術が記載され、第一段階の膜分離操作には限外濾過装置が用いられ、これによつて微生物が分離され、第二段階の膜分離操作には逆浸透濾過装置が用いられこれによつて分解可能物、無機物あるいは代謝生成物が分離されて無公害の流出液を得る技術が開示されていることが認められる。ところで、本願発明においても、限外濾過液を逆浸透濾過処理するものであるから、形式的には第二引用例記載の技術と共通する部分のあることは否定し得ないが、本来、電着塗装技術と下水又は産業廃水処理技術とは、それぞれ解決すべき技術課題を異にしており、異別の技術分野に属するものというべきであるばかりでなく、前掲甲第六号証によるも、第二引用例記載の発明には、逆浸透濾過液の再利用を直接示唆するような記載は認められないところである。

更に、第三引用例記載の発明が本願発明の技術的課題の解決手段を示唆するようなものでもなく、その効果においても差異があることは既に述べたとおりである。

そうであれば、審決が指摘するように、分離技術が電着塗装に限らず産業廃水処理、化学工業、食品工業等広い産業分野に適用されるものであること及び電着塗装において電着浴処理に逆浸透装置を用いることが公知であることを肯認するとしても、また、争いのない審決理由3の事実を考慮しても、審決の説くように、第一引用例記載の技術に直ちに第二及び第三引用例記載の技術を関連適用して、本願発明のような技術構成を着想するに至ることは、当業者といえども困難なことというべく、これを推考容易と認定判断することは誤りであるといわざるを得ない。

五 以上述べたところによれば、原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく、本件審決は違法なものとして取消を免れない。よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

イオン的に溶解化した合成樹脂を含有する水性電着浴の少くとも一部を限外濾過処理にかけ、得られる水性流出液を逆浸透処理してより純粋な第二水性流出液と濃縮保持液を得、該第二水性流出液の少くとも一部を被塗物の洗浄水として使用し、該保持液の少くとも一部を排出することを特徴とする電着プロセスの操作方法。

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